 
        
        産業保健推進センター(ストレスの要因とその対策)
 
        
        
         
        
        |   | 1.ストレス | 
 
          | ストレス | もともと機械工学の分野の用語、ゴム玉を圧迫したりスプリングを引き延ばしたりした際に生ずる歪みを表現する言葉 | 
|---|
Selye,H.(1950)
 ストレス:心身の負担になる刺激や出来事・状況により、個人の内部に生じる
ストレス:心身の負担になる刺激や出来事・状況により、個人の内部に生じる
      緊張状態。
 ストレッサー:ストレスを生じさせるような外部からの何らかの刺激
ストレッサー:ストレスを生じさせるような外部からの何らかの刺激
       視床下部-脳下垂体-副腎皮質系を介した汎適応症候群の概念
| これらのストレスに対処する(coping)には、 個人により異なる様式(coping style)がある。 これらのストレスを 処理したり(stress management) 制御すること(stress controll)がうまくできないと、 不適応反応を起こす(精神的反応、身体的反応、行動的反応、など) | 
 
  
   ストレスになるような人生の出来事:
ストレスになるような人生の出来事:
  ① life event:人生の比較的大きな出来事
  ② daily hassles:日常的な悩み 
| 職場でのストレス | 家庭生活でのストレス | 学校生活でのストレス | 
|---|---|---|
| 人間関係に起因するもの | 夫婦間の問題 (不和、別居、離婚) | 友人関係(クラス、サークル、クラブ活動) | 
| 仕事の質や量に関するもの | 親子関係(進学、就職、結婚) | 教師との間での軋轢 | 
| 仕事への適性に関するもの | 経済問題 | 成績に関するもの | 
| 将来への不安 (昇進や定年など) | 親戚関係 | 進学に関するもの | 
| 身体的ないし精神的病気や 外傷、事故、手術など | ||
| その他(嫁姑、騒音、宗教) | 
ストレスへの適応:我々は、ストレスに対処する能力をある程度持っている
①ショック期→②反ショック期(①、②、両方を併せて警告期)→③抵抗期
    ・外罰型(自分以外に原因を求めるタイプ)‥‥‥→被害妄想など
    ・自責型(自分の中に原因を求めるタイプ)‥‥‥→うつ状態、不眠状態
 
         
		 
        
        |   | 2.心のゆとり | 
 
          |  | |
|---|---|
| (a)欲求や感情の鬱積 | 緊張・不安状態、身体反応へ | 
| (b)適切でない防衛 | 神経症、ある種の心身症(過剰な防衛、防衛の常用、現実と比べてふさわしくない防衛) | 
| (c)問題解決の不適切さ | 情動・行動障害(社会に認められない形での情動表現や行動的緊張解消 | 
| 適応 | 常に変化する環境や状況要請にも応じ、 同時に自らの要求をも生かし、 著しい葛藤や不安を経験することなしに生活すること | 
| 順応 | 受動的適合行動(暗闇に目が慣れる、風土に合ってくる) ①外的適応:客観的にみて、社会的文化的基準と折り合いながら 他人と協調すること ②内的適応:個人の主観的世界、現象的内的枠組における適応 | 
| 耐性 | 適応に失敗した場合(不適応)の心理的欲求不満に耐え、 乗り切る力のこと | 
適応の方法:
 ①合理的解決
 ②直接的で健康なはけ口・発散方法
 ③間接的なはけ口
 ④様々な防衛機制
| 転移 | 特定の人へ向かう感情を、よく似た人へ向け変える | 
| 昇華 | 反社会的な欲求や感情を、社会的に受け入れられる方向へ変える | 
| 反動形成 | 本心と裏腹なことを言う | 
| 投影 | 他者へ向かう感情や欲求を、逆に他者が自分へ向けていると感じる | 
| 合理化 | 責任転嫁 | 
| 知性化 | 感情や欲動を直接意識化せず、知的な認識や考えでコントロールする | 
 
         
		 
        
        |   | メンタルヘルス | 
 
          
①WHO:健康とは、身体的にも精神的にも社会的にも良い状態を意味するものであり、ただ単に病気や虚弱でないというだけではない
②アメリカ精神医学会・産業医学会の定義する「健康な心」:
| Ⅰ | 心から楽しめるものを持っている | 
| Ⅱ | 考え方が柔軟であり、心にゆとりがある | 
| Ⅲ | 他人を認めることができる | 
| Ⅳ | 現実的な目標を持っている | 
| Ⅴ | 生産的な社会活動に積極的に参加できる | 
 
         
		 
        
        |   | メンタルヘルス不全 | 
 
          表3:職場でのストレスの内容別労働者数の割合
労働省:労働者の健康状況の調査、1997
| 性別 | 男 性 | 女 性 | ||
|---|---|---|---|---|
| 1 | 職場の関係 | 40.6% | 職場の関係 | 56.9% | 
| 2 | 仕事の質 | 37.4% | 仕事の質 | 29.5% | 
| 3 | 仕事の量 | 35.3% | 仕事の量 | 26.1% | 
| 4 | 仕事への適性 | 23.2% | 仕事への適性 | 22.1% | 
| 5 | 昇進、昇級 | 22.7% | 昇進、昇級 | 14.2% | 
表4:メンタルヘルスケアとその内容
| 対象 | ケアの種類 | 主な対処法 | 主な担当者 | 
|---|---|---|---|
| 健康者 (63%) | セルフケア | 健康保持増進 | 産業医 | 
| 産業保健関係者 | |||
| 半健康者 (25%) | セルフケア | ストレスコントロール | |
| ラインによるケア | 受容・共感・支持、など | 産業医 産業保健関係者 研修を受けた専門家 | |
| メンタルヘルス不全者 (12%) | 事業場内産業保健スタッフによるケア | カウンセリング | 専門的心理相談員 | 
| 事業場外資源によるケア | 精神医学・心身医学による門的対処 | 精神科医 心療内科医 | 
図1:カラセックの二次元及び三次元モデル
 
仕事のきつさが高く自己裁量度と支持が低いと最もストレスが大となる。仕事のきつさが高くても、後二者も最も高ければ、よいストレスとなり向上、発展とよい結果が得られる。
表5:働く人に見られる様々な症候群
| 1.職場で見られる症候群 | |
| ①ワーカホリック(仕事中毒症) | ②出社拒否症 | 
| ③昇進うつ病、転勤うつ病 | ④単身エレジー症候群 | 
| ⑤朝刊症候群 | ⑥燃え尽き症候群 | 
| ⑦サンドイッチ症候群 | ⑧上昇停止症候群 | 
| ⑨五月病 | ⑩職場不適応症候群 | 
| 2.最近のハイテク社会でみられる症候群 | |
| ①VDT症候群 | ②テクノ依存症 | 
| ③テクノ不安症 | ④情報ストレス症候群 | 
| 3.女性にみられる症候群 | |
| ①スーパーウーマン症候群 | ②シンデレラ症候群 | 
表6:ストレス関連疾患
| アレルギー性鼻炎 | 神経性視野狭窄 | 胃・十二指腸潰瘍 | 
| 潰瘍性大腸炎 | 過敏性腸症候群 | 神経性嘔吐 | 
| 本態性高血圧症 | 神経性狭心症 | 過換気症候群 | 
| 気管支喘息 | 甲状腺機能亢進症 | 神経性食思不振症 | 
| インポテンツ | 神経因性膀胱 | 不眠症 | 
| 片頭痛 | 筋緊張性頭痛 | 書痙 | 
| 痙性斜頚 | 関節リウマチ | 腰痛症 | 
| 頸肩腕症候群 | 原発性緑内障 | メニエル症候群 | 
| 円形脱毛症 | 多汗症 | 
表7:メンタルヘルス不全の現れ方
| ⅰ.身体的症状として | ||
| 前記(表6)のような身体疾患 | ||
| ⅱ.精神的症状として | ||
| うつ病、種々の神経症(対人緊張、うつ状態、不安、心気など)、 不眠症 | 
| ⅲ.行動の症状として | |
| イージーミス多発 | 事故多発 | 
| 無断欠勤・遅刻 | 服装や身だしなみの乱れ | 
| 種々の依存症(アルコール、パチンコ等のギャンブル、買い物) | 情緒不安定 (イライラ、八つ当たり、など) | 
| 仕事のムラ | |
 
<症例>
 1)色々なストレスが身体症状として現れたケース)
1)色々なストレスが身体症状として現れたケース)
| 主 訴 | 初診時49歳 女性 | 
| 主 訴 | 無気力、瞼が重くて開けない | 
| 家族歴 | 三人同胞、第二子、二女、長男(大学)、 長女(専門学校)、夫と四人暮らし | 
| 既往歴 | 特記事項なし | 
| 生活歴 | 病前性格;外向的、気が弱い、神経質、高校卒業後、 現在の会社に就職 | 
| 現病歴 | 長男の度重なる留年、長女の帰宅が遅くなりがちなことを気に病んでいた。職場では昇進し、張り切っていたが、残業が続くうちに瞼が上がらなくなった。 コンピュータ画面の見過ぎかと、脳外科、眼科受診。知り合いの医者から「筋無力症」を示唆され、嚥下困難も出現。二週間後、睡眠障害と共に過呼吸発作出現し、 救急搬送先で心療内科受診を勧められ、初診。約三ヶ月休養後、快復し職場復帰。 | 
 
 2)色々なストレスが精神症状として現れたケース
2)色々なストレスが精神症状として現れたケース
| 症 例 | 初診時35歳 男性 | 
| 主 訴 | 眠れないし疲れるので、休職の診断書を書いて欲しい | 
| 家族歴 | 2人同胞、2男、両親と3人暮らし、未婚 | 
| 既往歴 | 特記事項なし | 
| 生活歴 | 病前性格:内向的、短気、几帳面、神経質、 地元の大学卒業後、現在の会社に就職 | 
| 現病歴 | 3月末の人事異動で2つの係が併合となった。 年上の経験者二人が去り、代わりに新人一人が来て、本人との二人職場になる。 ちょうど年度替わりの忙しい時期で夜12時頃までの残業・休日出勤が続き、代休も取れない状態が2ヶ月続いた。 次第に眠れなくなり、あれもこれもと頭には浮かぶのだが、考えることも行動も先に進まなくなり、何も手につかない状態になった。 「このままでは周りの迷惑になるだけだ」、「ゆっくり休みたい」と診断書を希望して、初診。 | 
 
 2)色々なストレスが行動の障害として現れたケース
2)色々なストレスが行動の障害として現れたケース
| 症 例 | 初診時40歳 男性 | 
| 主 訴 | 寝付けないので、焼酎を飲んでいるが量が増えてきた。それでも眠れない。 | 
| 家族歴 | 2人同胞第2子、二男、中一の娘と小六の息子、妻と4人暮らし | 
| 既往歴 | 特記事項なし | 
| 生活歴 | 病前性格;内向的、几帳面、神経質、 大学卒業後、病院勤務 | 
| 現病歴 | 元来、寝る前に考え事をする方だった。 そのため、寝付けないこともしばしばあったが、病棟所属になってから、女ばかりの職場になじめず、ストレスが溜まりやすくなったことを自覚した。 この一年くらいの間に、寝る前の飲酒を始めたが、だんだん量が増えてきたにもかかわらず、眠りはむしろ悪くなってきた。 最近は一升瓶が二・三日しか持たない。体重も十キロ減り、アルコールを止めたいと思って、同僚の紹介で受診。 | 
 
表8:メンタルヘルス不全への対応
| ① とがめたり、注意したり、叱ったりしない | 
| ② 支援の立場で「どうしたの?」と寄り添う | 
| ③ 気配りを充分に行う | 
| ④ 積極的に耳を傾ける(傾聴) | 
| ⑤ 必要に応じて、本人の了承のもと、相談室を訪れる | 
 
         
		 
        
        |   | 5.メンタルヘルスケアの推進にあたっての留意事項 | 
 
          | ⅰ.「心の健康問題」の特性 | 
| a.状態を客観的に測定する方法がない。 b.個人差が大きい。 c.経過(推移)も客観的に測定できない。 d.すべての労働者に関わる問題であるにもかかわらず、現在問題を抱えている労働者に対する偏見(社会的偏見の存在)を生じる可能性がある。 | 
| ⅱ.「個人のプライバシー」への配慮 | 
| a.労働者個人の意志およびプライバシーを尊重することが大切である。 b.この配慮が欠けると、事業場の「心の健康」対策は成功しない | 
| ⅲ.人事労務管理との関係 | 
| ・心の健康の維持管理には、 人事労務管理との関連が大きい(身体の健康との比較 | 
| ⅳ.家庭・個人生活等の職場以外の問題 | 
| ・心の健康には、職場の問題と関連して、または単独に、家庭や個人生活、個人の性格など、多彩な要因が関与している | 
 
         
		 
        
        |   | 6.メンタルヘルスケアの具体的進め方 | 
 
          <4つのケア>
| ①セルフケア | 
| 労働者自身がストレスや心の健康について理解し、 自らのストレスを予防・軽減し、対処すること a.ストレスへの気づき b.ストレスへの対処 c.ストレスへの気づきや対処を進めるためには d.セルフケアを推進するための環境整備 | 
| ②ラインによるケア | 
| (ライン:日常的に労働者と接する現場の管理監督者) a.職場環境等の改善 改善の対象: 職場環境(作業環境、作業方法、休憩施設など)、 労働時間、仕事の量や質、職場の人間関係、人事労務体制、など 職場環境の評価と問題点の把握: 意見聴取、アンケート調査、など 管理監督者の能力養成: 声掛けを惜しまず、良き聞き役となる(積極的傾聴) 職場環境等の改善: これらによって把握した問題点の改善を図る 個々の労働者への配慮: 労働者の個々の能力、適性、および職務内容に合わせた配慮が必要 b.労働者に対する相談対応 c.事業者は、これらの管理監督者の役割や活動を十分理解し、 支援することが必要 | 
| ③産業保健スタッフによるケア | 
| 事業場内の健康管理担当者が事業場内の心の健康づくり対策の提言を 行うとともにその推進を担い、また、労働者および管理監督者を 支援する。 その業務: a.職場環境の改善 b.労働者への相談対応 ・就労中の心の健康問題を持つ労働者に対して →管理監督者と協力して職場適応を支援する ・専門的治療が必要と考えられる労働者に対して →その意志に配慮しつつ、適切な事業場外資源を紹介し、 必要な治療を受けることを助言する ・休業中の労働者の職場復帰に対して →管理監督者および事業場外資源と協力しながら指導および 支援を行うこと c.ネットワークの形成と維持 ・事業場内産業保健スタッフの業務に対して、事業者の強力 な支援と理解が必要 | 
| ④事業場外資源によるケア | 
| 事業場外資源:地域産業保健センター、 都道府県産業保健推進センター、精神科・心療内科等の医療機関など) a.大規模・中規模事業場: 事業場内産業保健スタッフがその役割を担う b.中小規模事業場: 人材確保が困難な場合、地域産業保健センター、 都道府県産業保健推進センター、などの支援を受けるのが有効 c.50人未満の小規模事業場: 人材確保が困難な場合が多いため、事業者の理解が果たす役割が 重要となる。従って、事業者への啓発および情報提供が大切 <プライバシー保護に留意> | 
 
        	産業医セミナー 於:産業保健推進センター
            大迫政智(メンタルヘルスかごしま中央クリニック)
			2002年10月16日
 
         
    	