メンタルヘルス

産業保健の話題「見まもる」

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見まもる

      鹿児島産業保健推進センター特別相談員 大迫 政智

1)オンとオフ

仕事をしている時間(オンタイム)は、気を抜くことが時に大事故につながる。
だから自分の時間になったら(オフタイム)、息の抜ける工夫が大切だ。

この工夫を、「オンとオフ」とか、「メリハリ」と患者さんにしばしば説明している。

子育ての仕事でも、この工夫が大切なのは同じ筈である。だが、どちらかに偏りやすいのか、「過保護・過干渉」あるいは「無関心・養育放棄」と、相対立する態度として表現されたりするので、親は悩むこととなる。





2)見まもる

P君は中学三年の一学期になるとすぐに、学校に行かなくなった。
一日の大半を部屋に籠もってコミックを見るかゲームをして過ごす。時に大声で母に怒鳴り、ときに小声で「生きていく自信がない」とつぶやく。

どう接すれば良いのか分からない、と母は初診時に泣いた。P君のプライドは同級生との確執で傷つき、どう解決するか判断不能の状態になってしまった様子であった。

短期戦の考えは捨てて、じっくり構えてP君の成長を見まもりましょうと説明し、受診しないP君への、母親と筆者の思春期家族相談が始まった。

ゆったりとしたP君の足取りは、やがて母を引き連れてなら外出するようになり、そのうちに車で母が送れば一人でゲームソフト店に入るようになり、雑誌の発売日には一人で本屋に行き、と進歩していった。

だが、親子の毎日の生活には不安や腹立たしさが溢れそうだった。それでも両親は、P君の成長を信じて見まもることを、あきらめなった。

7年後の秋、もう自由に外出できるようになっていたP君が、首に電気コードを巻き「死にたい」と言い出した。

「もう取り返しはきかない。この年齢で大学に入っても卒業したら○×歳だ。こんなことばかり言ってると、お父さんやお母さんに見捨てられる」

両親はP君の手を取り耳を傾けた。

2ヶ月後、P君は個別塾に通うことになった。更に3ヶ月後、P君は初めて受診した。塾に通って1年余、笑顔で難関大学合格を報告するP君がいた。

見張る」でなく「見捨てる」でなく「見守る」ことを続けた父母と、その労苦をしっかり受け止めたP君との共同作業の一段落であり、集大成への新たな道のりの始まりでもあった。





3)信じて見まもる

日常生活は苛立ちに満ちている。さっさと解決してしまえば楽だし、待つのは辛い。待てない時代、なのだろう。 対人関係でも変わりない。効率的(スマート)に付き合うことの出来る人が、社会性があると評価される。

ではあるが、ここぞという関係においては、信じてじっくり「見まもる」という態度(関係)を大切にしたいものだ。
(メンタルヘルスかごしま中央クリニック院長)


産業保健の話題 第84回:見まもる
鹿児島県医師会報 2008年8月号

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